大判例

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東京高等裁判所 昭和53年(う)2749号 判決

被告人 植草覺治

〔抄 録〕

所論は、裁判所法三三条二項によると、簡易裁判所は、三年以下の懲役を科することができるだけであり、併合罪はその全部を併せて審判するのが原則で、その真の眼目は併合罪全体について妥当な量刑をさせることにあるから、簡易裁判所が刑法四五条後段の、いわゆる余罪について、同法五〇条により更に裁判をし、有罪の判決をする場合には、既に確定裁判を経た罪の刑と合わせても三年以下にとどまる懲役を科すことができるに過ぎないものと解すべきところ、原裁判所は、併合罪の一部について既に懲役八月の刑が確定しているのに、その余罪である本件について、被告人を懲役二年六月に処しているから、その訴訟手続は、裁判所法三三条二項を脱法的に潜脱するもので、刑訴法一条及び憲法三一条に違反し、刑訴法三七九条にいう訴訟手続の法令違反にあたる、というのである。

裁判所法三三条一項二号は、簡易裁判所は罰金以下にあたる罪に係る訴訟について裁判権を有する外、窃盗罪、常習賭博罪及び横領罪等に係る訴訟についても裁判権を有するものとしているが、同条二項において、窃盗罪等については、三年以下の懲役を科することができるだけであるとして、科刑権に制限を設け、同条三項において、右の制限を超える刑を科するのを相当と認めるときは、事件を地方裁判所に移さなければならないものとしている。

このように科刑権に制限を設けているのは、簡易裁判所が比較的軽微な犯罪に関する訴訟事件を迅速に処理するために設けられたものであること、そのため簡易裁判所判事の任命資格について特例を設け、たとえば司法修習生の修習を終えた者でなくても、簡易裁判所判事の職務に必要な学識経験のある者であれば、選考によって任命することができるものとされていること、及び簡易裁判所判事はいつも一人制で事件を取り扱うものとされていることなどから考えると、あまり重い刑を科させるのは被告人の利益のため相当でないという考慮に基づくものと思われる。

所論は、裁判所法三三条二項、三項を刑法四五条後段の、確定裁判を含む併合罪の処断に結び付けようとするものであるが、右各条項には、所論のような結び付けを相当とする法文上の根拠が見当たらないうえに、もし所論のような考え方を採用すると、たとえば、併合罪の一部について、簡易裁判所が三年の懲役を科し、その裁判が確定したときは、他の簡易裁判所は、三年以下の懲役を相当とする軽微な余罪事件についても、条文上の根拠もないのに、すべて地方裁判所に移さなければならないという不合理な結果に陥るばかりでなく、右の三年の懲役を科したのが地方裁判所であるときや、その三年の懲役を科した裁判がまだ確定していないときはどうかなどという問題が起りうるのに、それについてよるべき基準もないという不都合を来すことになる。

以上のようなわけで、裁判所法三三条二項の科刑権の制限は、一個の主文で言い渡す刑を三年以下の懲役に制限するというだけのことであって、刑法四五条後段の「其ノ裁判確定前ニ犯シタル罪」、すなわちいわゆる余罪について有罪判決をする場合には、既に確定裁判を経た罪の刑と合わせて三年以下の懲役にとどめるべきであるとの趣旨ではないと解するのが相当である。

(藤野 坂本 門馬)

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